はじめに──夏を乗り越えた先に見えた光
夏期講習を終えた娘の姿には、明らかな変化があった。
あの猛暑の中で、朝から勉強し続けた日々は決して楽なものではなかったはずだ。それでも娘はやり切った。
そして1週間に1度ある特別テストでは毎回クラス上位の得点を取り、その経験が、確かな“自信”となって彼女の中に宿っている。
あの夏を境に、娘の中学受験は“努力”から“前進”へと変わった。
僕ら家族にとっても、この変化は特別な意味を持つ。今回はその後期授業が始まってからの記録を、物語のように綴っていきたい。
第一章:夏の終わり、笑顔の再スタート
夏期講習を終えた翌週、娘はまるで別人のように変わっていた。
毎朝の支度が早くなり、学校へ向かう足取りも軽い。学校から帰ってきてからテレビを見てだらだらしていた姿は今は見られず、帰宅即軽く勉強、その後おやつを食べ塾へと向かう。
日能研のカバンを背負いながら、「次のクラス、また頑張るね」と笑った。
その言葉には、以前のような不安や戸惑いはなかった。
夏期講習で得た経験が、彼女に“やればできる”という確信を与えたのだろう。
勉強に対しての姿勢も明らかに変わった。問題に直面しても諦めず、「なんでこうなるの?」と自分から考えるようになった。
以前は分からなくて不貞腐れていたのだが、今ではわからない際も「先生に聞いてみるね!」と前向きだ。
第二章:後期授業、上がったクラスでの挑戦
夏期講習の成果が認められ、娘は後期からクラスがひとつ上がった。
そして新しい教室での最初の授業が始まったとき、娘は緊張した面持ちで席についた。
「今までのクラスより、みんなできる子が多いんだよ」と少し不安そうに話していたが、その表情の奥にはわずかな高揚感もあった。
彼女にとって、この“昇級”はご褒美ではなく、次の挑戦への通過点だった。
そして驚くべきことに、そのクラスの中でも上位の席をキープしている。
教室では定期的に席替えが行われ、成績上位者から順に前列の良い席が割り当てられる仕組みだ。
当初はなかなか中位の席で足踏みしていたが回を重ねるごとに実力をつけていき、今では上位クラスの最前線で戦えるようになった。
第三章:熾烈な座席争いと、娘の笑顔
娘はこの“座席争い”を不思議と楽しんでいる。
「次は一番前の席になりたい!」
そう言って笑う姿を見るたびに、僕は胸が熱くなる。
親から見れば、この席順はまるで小さな戦場のようだ。
テストごとに順位が発表され、わずかな差で席が入れ替わる。
その中で娘は「悔しいけど次は頑張る」と自然に言えるようになった。
競争を“ストレス”ではなく“モチベーション”に変えられるようになったのだ。
この変化は、学力以上に大きな成長だと思う。
自分の努力を楽しみに変えられるようになった子どもは、どんな壁にも立ち向かっていける。
第四章:親子二人三脚の勉強時間
もちろん、すべてが順調なわけではない。
後期授業の内容は一段と難しくなり、特に算数の応用問題では手が止まることも多い。
そんなときは、僕や妻が一緒にノートを広げ、どこでつまずいたのかを確認する。
「ここまでは合ってるよ。じゃあ次はどう考える?」
そう声をかけると、娘は少し考えてから、「あ、こうかも!」と顔を上げる。
その瞬間の表情がたまらなく好きだ。
僕たち親子は、今やまさに二人三脚の受験生活を送っている。
時に衝突することもある。
「もう勉強したくない!」と泣く夜もある。
けれど、翌朝には「昨日の問題、もう一回やってみようかな」と言えるようになってきた。
その小さな前進を、僕たちは何よりも大切にしている。
第五章:学ぶ楽しさと、娘の変化
娘は最近、授業の話をよくしてくれるようになった。
「今日の理科で先生がね、実験の話してくれたんだよ」
「社会の資料、すごく面白かった!」
そんな言葉を聞くたびに、学ぶことそのものを楽しんでいるのが伝わってくる。
以前の娘は、「勉強=やらなければならないこと」という意識だった。
しかし今では、「知ることが楽しい」という気持ちに変わっている。
この変化は、親がどんなに言葉で教えても生まれない。
娘自身が努力して得た成功体験が、内側から彼女を変えたのだと思う。
第六章:冬期講習に向けて──もう一度、力を蓄える
年末に控える冬期講習は、後期授業の総復習と6年生に向けた基礎固めの時期になる。
「今度の冬は、夏みたいに前期の授業全部わかるようにしたい」と娘は言った。
その表情には、焦りではなく希望があった。
冬期講習では、後期で学んだ内容を再確認し、応用問題にも対応できる“地力”をつけていくつもりだ。
僕たち親も、これまで以上に計画的なサポートをしていきたい。
夜の勉強時間を少しだけ一緒に過ごし、翌朝には軽い復習をする──そんな生活リズムを、家族全員で整えていこうと思う。
受験は孤独な戦いだと言われる。
でも僕は、家族が一つになって支えるこの時間こそが、いちばんの宝物だと思っている。
第七章:親として感じる「成長」の意味
子どもの学力はもちろん大切だ。
でも、それ以上に僕が大事にしたいのは「心の成長」だ。
娘が努力を恐れず、失敗しても立ち上がる強さを身につけたこと。
それこそが、夏から後期へ続くこの時間の最大の成果だと思っている。
受験勉強を通じて学ぶのは、公式や年号だけじゃない。
努力の大切さ、仲間との競争、目標を追うことの喜び──それらすべてが、人生の基礎になる。
そしてこの経験は、きっと大人になっても娘を支え続けるだろう。
おわりに──「点」がつながる未来へ
娘の受験シリーズはいつもこの言葉で締めくくるようにしている。
僕の人生訓でもあるスティーブ・ジョブズの言葉だ。
「You can’t connect the dots looking forward; you can only connect them looking backwards.」
というものがある。
未来を見ながら点をつなぐことはできない。けれど、過去を振り返ったとき、あの努力が意味を持つ日が必ず来る。
この先、受験本番に向けて険しい道が続くだろう。
しかし、娘にはもう“信じる力”がある。
そして僕ら親にも、“支え続ける覚悟”がある。
点は、きっといつか線になる。
その線がどんな形を描くのか──それを見届けるのが、僕にとっての最高の幸せだ。
