前回の記事にて脳梗塞で緊急入院しCTを撮った結果、脳に影が発見されMRI検査をすることとなった。
MRI検査の結果、父の脳に映っていた影が肺がんの転移であることが正式に確認された。これまで行ってきた免疫療法は十分な効果を発揮していなかったようで、今後は抗がん剤と放射線による3rd line治療が検討されることとなった。
同時に、脳梗塞の後遺症による麻痺と向き合うリハビリ中心の生活が始まり、医師からは「脳梗塞が髄膜に波及した場合、延命措置の検討も必要」との説明を受けた。
“その時”が来たわけではない。でも、“いつか”が目の前に現実として浮かび上がった。今こそ、家族としてどう向き合うのかを考える時間が始まった。
脳の影は、がんの転移だった
MRIの結果、右側頭葉から前頭葉にかけて広がる影は、肺腺がんからの転移によるものであることが判明した。免疫療法を開始してから3か月が経っていたが、思ったような奏功は得られなかったことになる。
頭では理解していたつもりだった。「がんが脳に転移することもある」と。しかし、それが自分の父に起きていると明言された瞬間、胸が締めつけられるような感覚があった。
ここから治療は3rd lineへ。つまり、抗がん剤と放射線治療の併用が検討される段階に入った。がんを治すためではなく、少しでも進行を遅らせ、生活の質(QOL)を保つための治療である。
抗がん剤と放射線、3rd Line治療の選択
主治医から提示された治療方針は、抗がん剤による全身治療の導入と、脳転移に対する放射線治療の併用である。定位放射線(SRT)など、ピンポイントで照射する技術が進んでおり、体への負担を抑えつつ効果が期待できるという。
ただし、父は今、脳梗塞によって右手に麻痺が残っている。体力は確実に落ちており、すぐに治療へ踏み出すには慎重な判断が求められる状況だ。
そのため、現時点ではリハビリを優先し、体調を整えることが最優先となった。放射線治療には記憶力や認知機能への副作用もあるとされており、どこまでリスクを許容するか、家族としても考えていかねばならない。
脳梗塞と髄膜への波及リスク
今回、医師からもう一つの説明があった。「脳梗塞が拡がり、髄膜に影響が及ぶ可能性がある」という話だった。
髄膜とは、脳や脊髄を包み、保護している膜である。脳梗塞は血管の閉塞によって起きるが、炎症や脳の浮腫が進行した場合、その影響が髄膜にまで及ぶと、意識障害や昏睡、深刻な神経機能の低下を招くことがあるとのことだった。
肺がんによる髄膜播種とは異なり、これは脳梗塞に起因する重度の神経合併症の話だ。進行次第では、回復が極めて困難になり、寝たきりや意思疎通が不可能になるケースもあるという。
延命治療について、今こそ向き合うべきとき
「もし、意識が戻らず、寝たきりになったらどうするか?」
医師の問いに、言葉を失った。
延命治療の選択を自分が迫られるなんて、考えたこともなかった。
もっと先の話だと思っていた。人生の終わりに関する決断は、きっと別の誰かがするものだドラマや映画の中の話だと、どこかで他人事のように思っていた。
しかし、いざその可能性を突きつけられると、現実はあまりにも重たく、逃げられない。家族の誰かが決めなければならない時が、本当に来るかもしれないのだ。
父が自分の意志を伝えられなくなったとき、どうするか。心肺蘇生、人工呼吸器、経管栄養……どこまでを「生かす手段」として受け入れるのか。
尊厳とは何か、命とは何か、自分は本当に父の最期を理解できるのか。
まだ結論は出せない。ただ、目の前にある現実を受け入れ家族で向き合って話すべき時が来ている。
父の生き方を知る自分たちが、その想いを守るためにも。
父の今の様子と、家族の気持ち
父は今、急性期リハビリを受けている。右手の麻痺は残っているが、会話は可能で、笑顔も見せてくれ、時には母に憎まれ口を叩いている。場所と状況は違えどいつもの光景だ。食事も摂れており、介助が必要な場面は増えたが、前向きに過ごそうとしている姿勢は変わらない。
僕は、母の様子を見に実家を訪ねた。
病状などについて話していると突然母が静かに涙を流した。
「動かなくなっちゃった右手で今まで働いて、あなた達を育ててくれたんだね」と。
その言葉に目頭が熱くなった。
言葉にするのが難しいほど、深く、重く、そして感謝に満ちた涙だった。
母のその姿を見て、自分はあらためて思った。
今度は自分が母を支えていかなくてはならない。
父が長年家族を守ってくれたように、これからは自分がその役目を担う番だ。
当然だが家族のかたちは変わる。けれど、その思いはずっと受け継がれていく。
父の右手が担ってきたものを、今度は自分の手で抱えていきたい。
今後のブログで綴っていきたいこと
- 放射線治療の選択と実施の判断過程
- 延命治療に対する家族の対話と結論
- 父のリハビリの進捗と表情の変化
- 医師や看護師との対話で見えてきたこと
- 父と自分、そして母との時間の価値について
おわりに
実の父親のがんや脳梗塞と向き合うということ、それは自分の中の覚悟と向き合うことでもある。
治療や回復の可能性を信じながら、一方で訪れるかもしれない“その時”に備える現実。
不安もある。迷いもある。けれど、家族として、自分として、選び取っていかなければならない道がある。
その道を、父と一緒に、そして母や妹、自分の家族と共に歩いていきたいと思っている。
